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インド人華麗屋の息子001

インド人華麗屋の息子

                               本田健作


★ 1 ~惹き付けられる感覚~
それは、秋の落ち葉も散るある日のことだった。いつものごとく地元の大手一流企業に
勤めていた健作は、職場に着くと、上司から「別室に来るように」と言われた。

上「すまんが、君がリストラ候補に上がっているんだ。やめてくれないか」。寝耳に水の
話だった。「確かに自分は出世して行く同期を尻目に、まだ平のままだった。だけどだから
と言って、いきなり『やめてくれ』はないだろう。給料は少なくてもがんばっているのに・・・」。
そういう想いが頭の中をかけめぐった。

上「別に勤務態度が悪いからやめてくれと言ってる訳じゃないんだ。ただこれからリストラ
対象となる人は無差別に増えているんだ・・・云々」。後のことばは聴こえなかった。
「要するに辞めさせやすいヤツ、目立つヤツを切り捨てようって話じゃないか!
あんなにみんなを盛り上げて、楽しい職場づくりをして来たのに・・・」怒りと悔しさだけが
入り混じった。

退職まであと3ヶ月という時を切ったその時、ふと立ち寄ったカレー屋に置いてあった本を
目にした。「インド人華麗屋の息子」。タイトルからは、何の本かわからない。不思議に
惹かれる感じがし、僕は、その本を手にした。

読んでみると、カレーのルーの作り方、野菜の煮込み方などが書いてあるだけだが、
何か引き込まれるような感じを受けた。すると奥の方からカレー屋の主人と思える
しゃがれ声が聴こえて来た。

「その本がお気に入りかい。ダンナ・・・。しわだらけで日に焼け、やせ細ったその男は、
おもむろに話しかけて来た。

「え、えぇ、まぁ・・・」ウンともスンともつかない返事をすると、その小男はこちらの方へ
近づいて来た。

「インドにわしの息子が住んでおる。もしダンナが人生の道に迷っているのならば、
行ってみることだ。答えはあえてここでは言わない。行けばいままで知りえなかった
秘密の扉が開かれる。行かなければ、いままで通り平凡だが平和な毎日だ。
どちらを選ぶのも自由。じっくり考えてから返事をしてもらってもいい」。

「えぇい、知るもんか!どうせあと3ヶ月の命だ」。健作は、どうあがいても3ヶ月で何もかも
失うと言う想いから半ばやけっぱちの気持ちで、インドへ生まれて初めての旅をすることを
決意したのだった。

「インドの山奥に、〇〇〇という村がある。地図にも載っていない。日本人も来ないような
村だ。その小さな村に、わしの跡を継いで、息子がカレー屋を始めた。店の名前は漢字で
『華麗屋』と書いてあるからすぐわかる。近くに寄れば、いい匂いが立ち込めてくるハズだ。

トロッコバスまで近くまで行き、後は村人に道を尋ねながら、歩いて行くといい。もし道に
迷ったら、その本の扉を開けるといい。ヒントが開けたページにヒントが書かれているハズだ」。

そう言ったかと思うと店の主人は消えていた。店の中に立ち込めるカレーの匂いとインドの
その店を想い描きながら、健作が店を出たとき陽は暮れていた。

数日後、「健作、辞めるのかい?」。電話して来たのは、友人、小浦浩吉だ。
彼も大手部品メーカーに勤め、忙しい日々を送っていた。先にやむなく辞めてしまう
健作に同情の気持ちが湧きながら、自由な身になる健作のことをある意味、うらやましくも
あった。

「うん」「・・・で、辞める前に2週間の休暇をもらえたんだ。それでこないだ行ったカレー屋の
主人から聞いたインド人の息子が開いているカレー屋をインドまで訪ねて行こうと思って・・・。
自分のルーツ、これからの道しるべがわかるかもしれない・・・」そう健作は言い、不安と
ワクワク感の間を感情が揺れ動くのであった。
by lovekozeni | 2005-05-12 22:33 | 小銭持ち「メンター」の教え
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